「真の経営体へ」……検討会議最終とりまとめを批判する

2021/01/26

大学改革 調査報道

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「真の経営体へ」……検討会議最終とりまとめを批判する


 昨年12月25日、文部科学省は「国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~最終とりまとめ」(以下、「最終とりまとめ」)を発表しました。これは、昨年2月から役人、資本家、大学人が集まって開かれてきた「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」(以下、「検討会議」)の最終報告書にあたります。この会議は、本来公共部門であるはずの大学の教育・研究を金儲け・経済政策に利用するため、国立大学を企業に作り替えることを目的にした会議です。検討会議には、京大の山極前総長、交代後には湊総長も参加しており、大学改革に協力していく姿勢を示しています。


公開された「最終とりまとめ」の資料(画像をクリック)


 そもそも大学改革とは、大学の支配権を政府の下に置こうとする一連の政策のことで、大学が戦争国策に協力した反省から戦後に確立された大学自治・学問の自由を脅かすものです。特に80年代中曽根政権以降は、新自由主義政策の一環として位置付けられ、2004年の国立大学法人化に代表されるような、国立大学の民営化・合理化・受益者負担化が進められ、大学を金儲けのために利用する政策も始まります。国立大学の授業料がこの50年で約15倍(1970:¥36,000→2020:¥535,800)になったのも、「選択と集中」という形で金儲けになる研究ばかりが重視され人文系や基礎研究が軽視されるようになったのも、教授会の権限が奪われ学長の権限が強くなっているのも、大学改革という一連の政策の中での出来事です。

「最終とりまとめ」の核心……国立大学そのものを企業に変える

 今回の最終とりまとめの最大の特徴は、これまで産官学連携という形で国立大学を既存の企業の金儲けのために利用してきたというあり方から転換して、国立大学自体を金儲けする企業同然の「真の経営体」に変える狙いが語られていることです。


「したがって、国立大学法人は、我が国全体の持続可能な発展を志向し、(…)拡張した機能による活動が新たな投資を呼び込むことで、社会変革の駆動力として成長し続ける戦略的な大学、いわば真の経営体に転換することが急務である。ここで言う真の経営体とは、受け身ではなく主体的・能動的に社会に働きかけ、新たな資金循環を駆動する機能を持ち、自ら成長し続ける仕組みを内包させることが必要である。」(「最終とりまとめ」p.3-4)


 すなわち、日本経済の発展・国際競争力強化のため、大学に企業となって金儲けすることを求めています。大学が企業になれば、大学間の競争が激化します。競争に敗れた大学は倒産するしかありません。全人類の財産であるはずの大学が、資本家だけのための金儲けに走り、場合によっては潰れてしまうことがあってよいのでしょうか。

 また「最終とりまとめ」では、大学に通う学生の存在が彼岸に置かれています。よりよい学生生活を保障するための方策について述べることはおろか、コロナ禍におけるオンライン授業のあり方を「大学ニューノーマル」と称して賛美するばかりです。


「ポスト・コロナの新たな時代は、対面とオンラインとを組み合わせたハイブリッド教育 が標準となることは想像に難くない。(…)これまでの物理的な所在の“リアルキャンパス”だけを前提としたマインドセットを変え、世界に先駆けて「大学ニューノーマル」を確立することが肝要である。」(「最終とりまとめ」p.14)


 このように、文科省の役人たちの眼中には、学生のよりよいキャンパスライフという発想はなく、いかに効率よく学生にマスプロ教育を施し人材を育成するかといった合理化・コストカットの発想しかありません。

 さらには、学長選挙については、「学長選考会議が意向投票の結果に拘束されることがあってはならず、(…)学長選考会議が、意向投票の結果をそのまま選考結果に反映させ、過度に学内の意見に偏るように受け取られることは避けるべきである。」(「最終とりまとめ」p.7)と、学内の意向投票を重視するあり方についてはっきりと否定して、政府や企業にとって都合のいい人物を学長に据えやすくなるよう布石をしています。既にいくつかの大学では学長選挙が廃止されており、選挙の結果とは異なる人物が学長に就任している大学もあります。

 以上のように、新たな形で大学改革をますます加速させていこうという意気込みが、文科省、資本家、そして大学経営を実際に担うことになる大学上層部によってまとめられたのが「最終とりまとめ」だと言えます。大学の自治・学問の自由への踏み込みは拡大しており、昨年話題になった日本学術会議の任命拒否問題も根っこは同じです。

大学改革を止めてきたのは学生・教員の反攻

 しかし、今回の「最終とりまとめ」では、これまでの大学改革が失敗であったことも述べられています。


「国の一組織であることを前提としたかのような国の管理の仕組みや大学間の結果の平等を偏重するマインドが国に残っていることも否めない。また、各大学においても、大学内部における横並びの慣習などにより、法人化当初に描いていた、「競争的環境の中で、活力に富み、個性豊かな魅力ある国立大学」の姿は未だ実現しているとは言い難い。これらの点は、平成28年の国立大学法人法の改正により、指定国立大学法人制度を創設し、世界最高水準の教育研究活動の展開を推進しようという動きをも阻害しかねない。」(「最終とりまとめ」p.2)


 つまり、目標は未達成、道半ばだという口調で語られていますが、国立大学法人化から15年たっても当初描いていたものは結局実現できていないということです。それはなぜかというと、政府のやり方が悪かったからではなく、大学改革に反対する勢力が大学にいたからです。例えば、京大では2013年に当時の松本総長が総長選挙廃止を企てて、再選を狙っていましたが、松本総長の悪政に対する学生・教員の怒りが爆発し、同学会や職員組合が取り組んだ総長選挙廃止反対闘争を闘い、勝利を収めています。このように、学生や教員が大学改革に反対する運動を作ってきたからこそ、政府の計画は遅れに遅れ破綻してきました。

 文科省は、「最終とりまとめ」で改めて大学を企業化して政府の支配下に置くことを宣言してきたといえるでしょう。これを阻止し、大学自治・学問の自由を守れるかどうかは、私たち学生にかかっています。学生自治を復権させ、私たちが大学を担うことで、政府の介入を拒否しましょう。

(調査報道部)

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